講師の言葉
　誰もがよく知っている「桃太郎」の物語。その冒頭は、次のような文章です。
　　昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
　　ある日のこと、おじいさんは山へ「柴刈り」に、
　　おばあさんは川へ洗濯に出かけました。
　この物語は、平凡な言葉に秘められた「背景」を踏まえて読まないと、この物語が私たちへ語りかけているものが全く読み取れないで、ただの昔話で終わります。
　私の人生も、私に深く語りかけているのですが、私の人生という物語に秘められた「背景」がよく分からないので、私たちはありきたりの浅い物語としてしか、受け取れないでいます。
　仏教の経典には、経典作家による「衆生と共に」という深い願いが、あちこちに秘められています。それが理解できた時、経典は目の覚めるような真実の物語として、私たちの前に姿を現します。仏教が、今、ここ、私まで伝播してきた苦難の旅に対して、ただただ頭を下げざるを得なくなります。
　ところで、日本人私たちの心の中に、無意識のうちに、「話し言葉」より「書き言葉の方が上だ」という思いが潜んでいないでしょうか。しかし、経典は実は「話し言葉」としていただくべきものだと思います。親鸞聖人の「かな聖教」「御消息」「和讃」なども、その本質は「話し言葉」としていただいていくものだと感じます。
　経典を、隣の国の人々の言語に、また自分の母国語に翻訳しようと願い、困難な作業をし続けてきた先人たちへの深い謝念を胸に、6月の「女性部会」を迎えたいと思います。