『新住岡夜晃選集』(全五巻)

　このたび、『新住岡夜晃選集』全五巻を刊行することとなりました。
　住岡夜晃は、一八九五年（明治二十八年）に生まれ、一九四九年（昭和二十四年）に五十五歳で生涯を閉じました。生まれ育った広島県は、浄土真宗の土徳の厚い安芸門徒の地域でした。朝夕の仏前でのお勤めをせずに食事をとることなど考えられない家庭で、厳しくまた優しい両親の教育のもと、七人兄弟の長男として、貧しいながらも、仏様を中心とした温かい光の中で育ちました。法座の日、村人は最前列の席を空けて、小学校からの帰りを待ったといわれます。
　青年となった二十四歳夏の嵐の日、求め悶える心の中に信の灯が点りました。「狂風」と名のった彼は、近隣の青年たち数十名に檄文を配布し、共に真実を求めて歩もうと呼びかけ、ここに真宗光明団が創始されたのです。以来三十年余、一日一日岩を掴んで岸壁を登るように、渾身の力を求道と教化と僧伽の営みに注ぎ、如来のお心の前に生涯立ち続け生ききったのです。

　住岡夜晃は出遇う人に心から接してその運命に共感し、演壇に立っては説法獅子吼の人となり、一人になっては沈思憶念して執筆に励みました。真実を説く経典群、これを受けとめた七高僧を中心とした人たちの歩み、それらの仏法の歴史の神髄を顕わした親鸞聖人の教え。これらのお聖教を正面に据え、深く丁寧に、その一言一句が自らの心の琴線に触れ、我が身を奮い立たせるまで、読みぬき頂きぬきました。その著作の多くは真宗光明団の毎月の機関誌に掲載され、これを待ちわびて読む同朋もまた、師の夜晃と同じように心打たれて感謝し、感動に身を震わせて立ち上がったのです。
　人間に生まれたことの真の意味と喜びを見出し、限りない感謝の中で力いっぱい生きんとする願心に燃える多くの人たちを、 人生に真の勝利の凱歌をあげることができた多くの人たちを、住岡夜晃の生涯にわたる歩みと、そこから紡ぎ出されたことばが生み出したのです。

　住岡夜晃没後十三回忌を記念して『住岡夜晃全集』全二十巻が刊行されました。二十巻八千頁に如来大悲への帰命と讃嘆のことばが溢れています。十年後『住岡夜晃選集』全五巻が刊行され、ほぼ半世紀を経た今年、住岡夜晃の七十回忌と夜晃の創始した真宗光明団が創立百周年を迎えるに際し、記念のしるしとして本選集全五巻が刊行されることとなったわけです。
　住岡夜晃が生きた大正から昭和の終戦直後にかけてと今日とでは、時代状況が大きく移り変わってきています。しかしそれは、人間と社会のいわば表面における変化であって、その深層においては、誰もが真実を求め、真実は誰の心の奥底にも至ろうとし、両者が一つに出遇うことが切に願われているのが、時代を超えた人間の在り方ではないかと思われます。
　真実の如来と迷妄の人間との出遇い。この出遇いを自らの課題として求め、経論釈のお聖教に深く尋ね入り、同朋と共に歩みぬいた住岡夜晃の書き表されたものが、真実に出遇おうとする現代の人々の心に、一つの光となって輝き始めることを願ってやみません。

　全五巻の構成は、住岡夜晃の生涯を年代順に五つにわけ、その期間に発表された文章の中から『住岡夜晃全集』を底本として選んだものとなっています。
　第一巻『僧伽の誕生』は二十四歳からの五年間の草創期。
　第二巻『不退の歩み』は三十代前半の忍従と精進の歩み。
　第三巻『真実』は眼を内に転じ深く照らされて歩む三十代後半。
　第四巻『一筋の道』はただ大法のごとく信じ生きる四十代。
　第五巻『仏法ひろまれ』は終戦後の生涯最後の五年間。

二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』編集委員会

　第一巻には主に、住岡夜晃（狂風）が一九一八年（大正七年）から一九二三年（大正一二年）、二四歳から二十九歳にかけて『光明』誌に書いた文章を収録しています。

　彼は一八九五年（明治二十八年）広島県山県郡原村でお念仏の法義を尊ぶ両親のもとに生まれました。二十歳、広島師範学校を出、故郷に近い小学校に就職しました。しかし、二十二歳の秋ごろから深い内面的な苦悶を抱え読書に没頭しました。二十四歳の夏、「信の火がかすかに点ぜられ」、彼は如来の慈光によみがえりました。その年の十一月、住岡狂風の名で「親しい若い皆様よ」の文を近隣の青年たちに配り、集まった青年たちと真宗光明団という求道団体を結成しました。翌年の一月、機関誌『光明』を謄写刷りで発行し、以後、戦時中政府の命令によって発行を停止させられた期間を除いて、五十五歳で亡くなるまで毎月『光明』の発行を継続しました。
　真宗光明団結成当初、彼は小学校に勤務しながら、休日等をつかって講演活動を行っていました。初期は近隣の町村での活動が中心でしたが、やがて各地に支部ができ、その活動の範囲は広がっていきました。一九二三年三月末、団の五周年大会は飯室養専寺で盛大に挙行されましたが、大会終了直後から彼の活動に対する非難、攻撃、迫害が盛んとなり、彼は教職をとるか真宗光明団の活動をとるかの岐路に立たされました。彼は七月をもって教職を去り、十二月、家族と共に住みなれた故郷を出て広島に移りました。

　本巻は全六章で構成していますが各章のおおまかな内容は以下のようなものです。
　序章は、誕生より二十四歳までの彼の歩みがわかるものを、後に書いた文章の中から部分的に抜粋しました。
　第一章には、彼が最初に書いた文である「親しい若い皆様よ」と、初年度の『光明』誌に掲載された文章を集めました。
　第二章の文章からは人生に真向きになって取り組み、生きよとの熱いおこころが伝わってきます。
　第三章の文章からは、道を求める第一歩には「清らかさ」への求めがあることを知らされます。
　第四章の文章には、彼が身をかけて伝えようとした深い信心念仏の世界がさまざまな角度から綴られています。
　第五章の文章は、彼が非難迫害によって教職を去り、故郷を出るに至る、その一連の経過の中で書かれたものです。

二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』第一巻編集委員

　一九二三年（大正十二年）は、関東大震災により四十万戸が焼失する大悲劇の年でした。また、真宗光明団、住岡夜晃にとっても大苦難の年でした。五周年大会の後、「教職を取るか仏法を取るか」の岐路に立たされて、遂に彼は、教職を辞し、十二月には家族を伴って故郷を去り、広島市に移ったのでした。
　明けて一九二四年正月を迎えて、団員の数も少なく、大家族を抱え、決まった収入もなく、はたと現実に直面して「私は一体どうなるのだろうか」「この通りを続けていていいのだろうか」などの不安が彼を襲ったであろうことが窺えます。「この容易(わかり)きった問題が未解決のまま貴方の頭の内に残ってはいなかったか」（「念願に生きて永劫の彼方へ」）という文章は、住岡夜晃自身のことでもあったのです。
　しかし、彼はこの文章を書き進めながら、年頭に当たって問題を整理すると共に改めて自らの道をはっきりと確信し、嵐の中に漕ぎ出したのです。そして、いよいよ獅子奮迅、大精進の生活を始めました。「僧侶の資格を持たない者が仏教を語る」ことに対する非難中傷も激しく、それに答えるべく彼は猛烈な勉強、読書に全精力を傾けます。学んだ教理を咀嚼し分かりやすく説くとともに、人生の苦底で泣く同胞に対する篤い憶いを、旅の車中や講演の合間で書き連ねたものが『光明』、『聖光』として毎月同胞に届けられました。また、多数の単行本の発刊、講演により教線も安芸一辺から東京から沖縄まで次第に拡大していきます。文字通り休む間もない「奮闘また奮闘、東奔西走」の時期でありました。かかる五年間の猛精進、猛奮闘によって、真宗光明団の基礎が築かれたのです。しかしその間、眼に入れても痛くない最愛の長女哲子の死（一九二六年）、また敬慕してやまない父勘之丞の死（一九二七年）等、彼の生涯に於ける最も悲しいことが次々に起きています。世は治安維持法の制定、労働農民運動の興隆、殺伐とした風潮が人々を襲っていました。一九二九年には世界大恐慌が起き、未曾有の大苦悩が押し寄せるのです。
　そうした人々の苦難に比例して、真宗光明団の活動は野火のように深く浸透していきました。「各地に同胞が生まれ、支部が設けられ」、また、大正の終わりから、昭和のはじめにかけて春季講習会、やがて夏季講習会、報恩講の三大講習会が開設され定着していくのです。しかしそれは横への広がりでありました。その後、彼の歩みは一転して、内への深い歩みが始まります。一九二八年の十周年大会後、団の活動目標も、大衆獲得から「外より内へ」「量より質へ」と急角度に変わっていくのです。

　第二巻は次のように纏めています。
　第一章「いかに生きるか」は、苦悩の元が人間の転倒した考えや言動にあることを明らかにし、仏法に導かれて生きることを述べています。
　第二章「道を求める者の態度」は、真摯に教えに導かれていく者の態度を示しています。
　第三章「親鸞聖人を偲ぶ」は、聖人に出遇った感動、感謝、讃嘆です。住岡夜晃にとって善知識は親鸞聖人でした。下山と法難という体験を同じくしたことが聖人に対する憶いを特別篤いものにしています。彼の人生は常に「何事も親鸞聖人の如く」と、聖人のお意を訪ねる歩みでした。
　第四章「化城を出でて」は、仏法を求める心の中に隠れている人間の闇の深さを知らされ、念仏一つを頂いていくことを述べています。
　第五章「回向のみ名」は、「無慙無愧のこの身にてまことの心は無けれども弥陀の回向のみ名なれば功徳は十方にみちたもう」の意のごとく名号に生かされた生活を述べています。
　第六章「疑謗を縁として」は、仏の教えを聞いていく過程で起きる疑問や躓きを問答の形で明らかにしています。
　第七章「試練の中で」は、団創設五年から十年の間の出来事の中で、彼の苦悩と真実を求めて不退に歩みぬく姿が示されています。

　　二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』第二巻編集委員

　一九三一年（昭和六年）からの五年間の日本のできごとを見ますと、九月、満州事変が始まります。一九三二年（昭和七年）五月に五・一五事件が起こり、犬養毅首相が射殺され、六月には警視庁に特別高等部が設置されます。一九三三年（昭和八年）には、日本は国際連盟を脱退。戦争に向かって既に社会が大きく動きだしている時代でした。しかし、当時の社会では昭和八年頃にはカフェーやバーが全盛、ヨーヨー流行など、多くの人々はまだ未来への危機感を持っていなかったことが分かります。
　そういう時代的状況の中、住岡夜晃は、一九三三年（昭和八年）に開催した真宗光明団十五周年大会について、「この度の十五周年大会は、全く、内へ内への進路をとった」、「この大会こそ、一面過去の団の歩みを清算するものであり、一面将来への躍進飛躍の第一歩を画する一大基調をなすものであった」と述べ、その歩みが大きな変容を遂げる年であったことを明らかにしています。
　「十五周年を基調として」という文の中で、彼は、その内へ内への進路の変換を、
「されば我が同胞よ。
　一、何れの仏教者よりも、真理に対して忠順であれ。師教に対して忠実であれ。
　一、何れの仏教者よりも、求道に熱烈であれ、教えに対して深い理解力と選択の眼を持て。
　一、何れの仏教者よりも、自己自身を内面的に深く培え。
　一、何れの仏教者よりも、静かであれ。
　一、何れの仏教者よりも、社会に働きかけるのに強力であれ。
　一、何れの団体よりも固い団結をたもて。
　一、何れの団体員よりも相互援助の実を挙げよ。
　以上七か条こそ、我が光明団の実現すべき金条である」
と述べています。
　また、この年、「六間に十三間の総二階、七十五畳敷きの講堂をはじめ」とする新本部が建設されたことにより、そこを「学仏道場」として、彼が本格的な学びへと歩み出した記念すべき年でありました。それまで、「我々は久しく、借家の不便に全くつながれて、十分に手足をのばすことが出来なかった」状況から、「新しい本部は、我等の歩みの上に、劃時代的なものを与えることを断言致します」と、彼自らが宣言するものとなったのでした。
　一九三五年（昭和十年）、四十一歳の時に書かれた「聖講習会の印象」には、「今の如き聖講習会は、昭和六年鳥取県東郷湖畔において開催したのに始まるのである。この年より本団の運動の全ては一変された」と述べています。
　このように、光運動の進路の転換と新本部の建設により、彼は、「善悪、賢愚、僧俗、男女、等々の一切の対立差別を超えて南無阿弥陀仏に乗じて生くべきである」と、「唯南無阿弥陀仏を志求し、行歩する」歩みを開始することとなります。
　そのような思索の日々が、「この不滅の内的生命の願求のない処に、どうして浄土門の教えが領解出来よう。この全我的な志願こそは、人を内に育てて、遂に『大無量寿経』、如来本願の宗教を会得せしむるのである」と、『大無量寿経』、即ち「如来本願の宗教」を尋ねることとなったと思われます。

　この第三巻には、彼のその尋求の歩みを、
　　第二章　我が慈父親鸞聖人
　　第三章　大乗仏教のこころ
　　第四章　浄土真実の宗教
としてまとめました。
　第一章には、この本選集をひもとくどのような方にも、読みやすく分かりやすいと思われる文章を集めました。
　第五章には、彼が若き日、小学校教師として勤務しつつ、親鸞聖人の教えを尋ね続けた日々の切実な思いと苦悩がよく表れていると思われるものを、一部掲載しました。
　第六章には、彼の当時の求道が垣間見られる文章等を掲載いたしました。

二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』第三巻編集委員

　第四巻は一九三六年（昭和十一年）から一九四四年（昭和十九年）、住岡夜晃の四十二歳から五十歳までの文章を集めたものです。名前を変え、創立二十周年を迎え、本願の第十八願や『浄土論註』を深く領解するなどした、生涯後半の充実の十年と言うべき時でしょう。
　しかし、時代は深刻さを増し、国内では一九三六年に二・二六事件が起こり、中国大陸では盧溝橋事件が起こって日中戦争へ拡大し、一九四一年には米英に対して宣戦布告し、太平洋戦争に突入しました。政府は宗教団体へ挙国一致運動を要望し、「神国日本」へと国民の意識は大きく動かされていく時代でした。
　この中にあって彼は、四十二歳の時、二十代に名のった「狂風」の名を、闇の世を照らす寂静の光に生かされんことを念じて「夜晃」へと変え、二年後には真宗光明団創立二十周年を迎えます。「汝は大法のために死ね」との心の声を聞いて、誤解や非難の中を歩み抜き、「一切あるがままを黙って頂いて、一筋の道を歩ませて頂く」生き方を見出した時期でもあります。
　春季講習会が始められ、夏季講習会、報恩講とともに、一週間の会座である三大講習会がこれ以降毎年開かれ、お聖教を深く丁寧に頂く獅子吼の歩みが続けられました。四十三歳の時に「私はこの七八か年が間、ただわれらが歩みを内へ内へと転じて、ひたすらに純化の一道を志してきた。そしてこの内部へ内部へと向けられた歩みは、かなりの成果をおさめてきた。」と、また四十五歳の時に「私はここ数年、原典についての講義以外に話さない。･･･一言一句の上に急がず焦らず、全一なるものを見ていこうとする」と述懐しています。
　長文のために掲載できなかったものとして、如来本願の中心である第十八願文とその成就文について領解した「如来本願の真意」（四十四歳）、天親菩薩の一心の意味を尋ねた「回向の心行」（四十三歳）、『浄土論註』の善巧摂化章などを講じた「柔軟心」（四十三歳）などがあります。

　本巻は全六章で構成されています。
　第一章「一筋の道」は、「念願は人格を決定す　継続は力なり」の言葉のもとに念仏一道を歩み抜く姿を述べます。
　第二章「正法に忠実なれ」は、凡夫の自己に帰り、永遠の道を求め尋ねて一心に進まんとする者の姿を描きます。
　第三章「回向のみ名」は、「弥陀の名号となえつつ」と、深い信心の世界を讃える親鸞聖人の和讃のお心を聞いていきます。
　第四章「信をとらぬによりて悪きぞ」は、教化を受け讃嘆談合し信心を深めていくことの大切さが説かれます。
　第五章「如来本願の真意」は、清浄真実なる悲願のすべてである南無阿弥陀仏に帰ることを説きます。
　第六章「御同朋と共に」は、改名の経緯と、「ただ、大法の如く歩んで恐れざれ。真実のみ末通りたもうが故に」という結論と確信に至った真宗光明団二十周年記念の時を描きます。
　なお、一九四〇年八月（四十六歳）に、『光明』と『聖光』は廃刊となり、これ以降終戦までの文章はありません。　

二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』第四巻編集委員

　第五巻は、一九四五年（昭和二十年）から一九四九年（昭和二十四年）、五十五歳で亡くなるまでの、住岡夜晃最晩年の文章を集めたものです。
　一九四五年（昭和二十年）八月六日、原爆が投下された時、広島市にある真宗光明団本部では夏季講習会の六日目の講義がまさに始まろうとしていました。混乱が少し収まった頃、同胞にむけて書かれた手紙からその当時の住岡夜晃の決意を知ることができます。

　誠にこれから精進しよう。今日本を救うものは正法だけである。念仏だけである。自由の天地は念仏の華の咲くべき時を待っている。いよいよ精進しよう。今や世をあげて暗黒時代を出現し、光を求めています。そこで今力一杯働きかけることが第一であります。今からは私も、一切の条件を撤廃して何処へでも出かけてお話にゆくことに致します。（中略）いよいよ御念仏のみの時が来ました。一切の武器をすてたら、後に残るものは信のみです。
（昭和二十年十月二十八日）

　一九四八年（昭和二十三年）『光明』誌が再び発刊できるようになると、この決意が次々と具体的に同胞へのたよりとなって届けられていきました。その「光明復刊の辞」から本巻は始まります。

　第一章「世の中安穏なれ」では、終戦の混乱から立ち上がる力、真に日本を救うのは、正法による目覚め、「信」であることが示されます。
　第二章「愚者のめざめ」では、苦悩の中にこそ大悲光明の智慧のはたらきがあること、そして第三章「念仏者は無碍の一道なり」では、大悲光明の智慧による目覚めは同時に、苦悩多き人生を使命をもって生ききることであると教えられます。
　第四章「仏心とは大慈悲これなり」は、復刊された『光明』誌の最初から住岡が亡くなる直前まで書きつづけられた論文「大慈悲」を収録しています。「仏道とは『仏と鬼』との関係交渉である」とし、その関係交渉とは『大経』の本願成就によることが明らかにされ、その領解を親鸞聖人の『教行信証』信巻の三心釈をいただくことで教示されています。
　第五章「仏法ひろまれ」では、如来回向の本願力による「信」で結ばれた「我らの世界の成就」、つまり僧伽の興隆への願いが語られます。
　終章「永遠の旅人」は、本選集の第一巻に「信の火はかすかに点ぜられた」と表現されたその「信の火」が、彼の上で念仏となって燃え続け、また有縁の者を照らし続けている姿を教える文章を集めました。そのメッセージが届き、読者の上にも、その「信の火」があらんことを念じつつ。

二〇一八年八月十五日
『新住岡夜晃選集』第五巻編集委員